なぜ漢方を始めたのか

2023/03/20

なぜ漢方を始めたのか
 私が漢方薬局を始めた理由には、母の病気と東日本大震災が大きく関わります。私の母は、ぜん息を持っており入退院を繰り返していました。そんな母が知人の紹介で漢方専門の薬局に通い始め、症状が緩和していくのを見ました。私が小学校の頃です。幼いながらにも「漢方はすごいな」という思いを抱くようになりました。
 いつかは漢方をやりたいと思って、薬学部へ進学しましたが、大学では研究にのめり込み、気が付いたら博士後期過程まで進学していました。修了後は、研究用試薬の専門商社に就職し、研究者が使用する細胞の開発にたずさわっていました。そしてあの東日本大震災が起きて、当時勤めていた仙台市の会社の仕事がストップし、一度故郷の札幌市に戻りました。けれども、第二の地元でもある仙台市で何か役に立つことをしたいと、子どもの頃から「いつかやりたい」と思っていた漢方専門薬局を開局しました。
 また、大人になってから知りましたが、母は、せっかく良くなっていった漢方なのに、飲み始めて、3ヶ月程でやめていました。高額だったらから、というのが理由でした。当時で毎月3万円以上の薬代がかかり、とても続けられなかったということでした。そのような経験から、私は良質な漢方をできるだけ安価で多くの人に届けたいと思っております。なお、私の母は、発作用の吸入を1日2回も使っていましたが、今は当薬局で処方する漢方を使用しているためか、ほとんど使うことがありません。あらためて、漢方の凄さを実感しております。

漢方薬局 運龍堂について
私が始めた漢方薬局は、仙台の城下町の中心地である「芭蕉の辻」近くに位置しています。仙台藩が造営した建物の瓦に使用されていた龍のモチーフの石碑は、現在も辻の四つ角に道標と共に存在しています。縁起のいい龍が運や幸せ、健康を運んでくれるものと信じ、「運龍堂」と命名しました。運龍堂は、本当に必要な人に、適切な量と金額で漢方を届けたいと考えております。現在、日本全国の皆様に漢方の考え方をベースとした健康食品をお届けする活動をしています。

主な事業内容は
・漢方薬、健康食品、生薬の販売
・漢方発想に基づいた健康食品の開発
・勉強会、セミナーの開催
・健康に関する研修
などです。
また、生薬を栽培している農家と直接的なパイプがあるため、薬膳料理で使用する素材の供給も行なっています。

漢方薬は多くの成分を含んだ自然由来のもの
 現在の西洋薬のほとんどは、人工的に合成された化学物質で、その多くはひとつの成分で構成されており、ひとつの疾患に強い作用をもたらします。それに対し、漢方薬は植物や動物、鉱物など天然の「生薬」を使用し、2種類以上の薬で構成されており、多くの成分を含んでいるのが特徴です。効果は個々の生薬の薬効の総和ではなく、構成生薬の組合せによって得られます。自覚症状があるのに、病院の検査や診察で異常がないという睡眠や疲労、更年期障害、血流悪化など長年「未病」にお悩みの方はもちろん、がんをはじめとする難病にも、体質改善や自己治癒力の引き出しによって対応できます。

漢方薬と西洋薬
 上記の通り、漢方薬は天然の素材を活かし、現在の西洋薬のほとんどは、人工的に合成された化学物質です。ただし、これは大きな問題ではありません。漢方薬と西洋薬は目的と基準がそもそも違います。その違いを活かして、両者をうまく使いこなす必要があると私は考えます。
 西洋薬の基準は特定の症状がすぐに消えるのが良い薬です。例えば、コレステロールが高ければ、そのコレステロールの値がすぐに正常値の範囲になるのが良い薬です。血圧が高ければ、血圧がすぐに正常値になるのが良い薬です。一方で、漢方薬の基準というのは、体にとって毒性が無いのが良い薬です。すなわち長く飲み続けても体にとってプラスにはなっても、マイナスにならないのが良い薬です。また病気を発症させないというのも漢方にとって重要な要素です。病院に行った時、特定の病気や症状が無ければ、西洋薬を処方されることはありません。一方で、漢方薬は普段から服用することで病気の発症を防ぐものがたくさんあります。「漢方は長く飲まないと効かない」と話を耳にしますが、本当は普段から長く服用できて病気にさせないものが良い漢方薬です。つなり「漢方は長く飲まないと効かない」ではなく、「長く付き合えるのが良い漢方薬」ということになります。
 また漢方薬と西洋薬のもう一つの大きな違いは、「流れ」です。漢方薬の目的の一つは「流れ」を正すことです。例えば、熱、血液、体液の流れがしっかりしているのが健康を保つ上でとても重要だと考えます。西洋薬は代謝の流れを止める薬がほとんどなのですが、逆に漢方というのは流れを作るもの、流れを促すものが多いのです。
 もう一つ、漢方薬と西洋薬の大きな違いというのがあって成分量の多さです。病院の薬というのは、ある一個の成分からできていることがほとんどです。複合薬と言って2種類とかがミックスされてできているお薬も中にはありますが、多くの成分が単一成分です。一方で漢方薬は一つの生薬をみても、だいたい何百種類という有効成分が入っています。それをいくつも組み合わせて処方が成り立っているので、漢方処方の中身を分析しようとすると大体数百から数千種類の天然成分が含まれていることになります。従って、いわゆる漢方薬というのは「体に優しい」、「ゆっくり効く」など、そういうイメージを持たれている方が多いですが、体に優しく効くというのは確かにそうです。

中医学と漢方の関係
 そもそも「漢方」という名称は、日本で作られた単語です。「漢方」と聞くと中国の物というふうに考えている方が多いのですが、実はこれは日本独自の言葉になります。率直に言いますと日本の伝統医療です。日本で培われてきた東洋医学が「漢方」です。中国から大陸を通してそれぞれの時代に様々な書物や考え方が日本へ入ってきていました。黄帝内経や傷寒論など書物に体系的にまとめられたものがあるのですが、それが日本に伝わって向こうの考え方を日本だとどういう風に使えるだろうかということで、日本の気候風土、それから人種、日本にある素材そういったもので色々考えて発展してきたものが実は「漢方」なのです。
 そして、「漢方」という単語は江戸時代にオランダからもたらされた医学と区別するために生まれました。オランダから入ってきた新しい医学を「蘭方」と呼び、中国(漢)に由来する従来の日本の医学を「漢方」と呼ぶようになったことが始まりです。
 また戦後に中国は、これまでの伝統医学を体系化し、「中医学」(ちゅういがく)を確立させました。これは、中国の国策として、自国の伝統医療を世界に発信するためでした。中国を起源としつつも日本で独自の発展を遂げた伝統医学が「漢方」です。数千年の歴史がある中医学は、病気として現れる前に予防するのが特徴です。医師は患者の体を観察し、症状にあった天然の生薬の配合と鍼灸などで治療します。一方、「漢方」は、起源は同じながら、気候風土の違いから中医学と異なる考え方も有しています。例えば、日本は島国であるため、中国の内陸に比べて、湿度が高く、体液の循環が乱れやすいです。不要となった体液が悪さをする「水毒(すいどく)」という単語は日本で生まれた単語です。

漢方と西洋医学の融合
 病気の原因が特定できており、原因別の治療が可能な場合や手術が必要な場合、一般的に西洋医学は優れています。しかしながら、原因が特定できない慢性の病気、体質がもたらす病気には漢方が向くことが多いのです。しかし、どちらか一方が優れているというわけではありません。それぞれの得意分野を組み合わせて併用することが有効だと考えられています。ステロイド剤に似たような効果がある漢方薬とステロイド剤を併用することで、治療効果が上がり、場合によっては副作用が比較的強い西洋薬の使用量を減らすことができるのです。ステロイド剤以外にも様々な病気において、西洋薬と漢方薬を併用すると治療効果が上がるという臨床データが増えてきました。抗がん剤治療の際に漢方薬を使うことで、抗がん剤の副作用を軽減させることも出来ますので、西洋薬と漢方の併用が有益な場合があるのです。したがって、西洋薬と漢方薬の両方のメリットを活かした治療を行うことが、今後ますます重要になると私は考えています。

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